サロンの値上げはいつから適用する?予約済み・回数券・月額会員の線引き
サロンの値上げを「いつから」適用するか決める手順
サロンの値上げで揉めるのは、金額そのものより「改定日をまたぐお客様」の扱いを決めていないときです。予約済みのお客様は旧価格のままか、使いかけの回数券はどうするか、月額の会員はいつから新料金か。この3つを先に決めて告知文に1行ずつ入れておくと、当日の口頭説明がほぼ要らなくなります。紙の台帳でもエクセルでも使える手順です。わかることは3つです。(1)お客様を3層に分ける枠組み、(2)3層それぞれの決め方と判断材料、(3)「今のうちに」と煽る告知が法令上ひっかかる線です。
なお、この記事は値上げすること自体はもう決めた方に向けたものです。そもそも値上げすべきか、安売りをやめるかという話はひとりサロンは「厚利少売」でいい|安売りしない経営という選択にまとめてあります。
結論:改定日は1つでも、線引きは3つ必要
先に答えをお伝えします。「9月1日から料金を改定します」という告知だけでは足りません。その1文が届いた時点で、お客様はすでに3つのグループに分かれているからです。
- これから予約を取る人 — 新価格でよい。悩む余地がない層です。
- 改定日より前に予約を入れていて、来店は改定日より後になる人 — 旧価格か新価格かを店が決める必要があります。
- すでにお金を受け取っている人 — 回数券・チケット・コース券の使いかけ、月謝や月額会員の継続中の方です。
揉めるのは2と3だけです。そして揉める理由も同じで、お客様の側には「あのとき聞いた金額」がすでにあるからです。1の人には比べる対象がありません。
やることは4つです。
- 自店のお客様を、この3層に分けて紙に3行書く。
- 2の予約済みについて、「予約した日の価格」か「来店する日の価格」かどちらかに決める。
- 3の前払い・継続課金について、残り分の扱い・有効期限・買い直しの案内を決める。
- 決めた3行を、告知文にそのまま入れる。
道具は要りません。改定日を決める前に、ノート1枚と30分でここまで決められます。順に見ていきます。
値上げは客単価(1回の来店でお客様が使う平均金額のこと。客単価とは?計算方法と平均の考え方・上げ方の基本)に最も直接つながる手段です。ただし、数字が動き始めるのは「新価格でお会計した人が出てから」であって、告知した日からではありません。この時差が、次に説明する3層の話とそのままつながります。
「9月から値上げします」だけでは足りない理由
料金改定の準備で情報を集めると、出てくるのはたいてい「告知は1〜2ヶ月前に」「理由を添えて」「文例はこう」という話です。どれも正しいのですが、この形の情報には共通の前提があります。お客様が全員、告知を読んだ後に来店するという前提です。
実際にはそうなりません。1ヶ月先まで予約が埋まっている店なら、告知を出した時点で、改定日より後の枠にすでに何人も入っています。回数券を扱っていれば、告知の日に「残り3回」の状態の方がいます。月謝制なら、告知の翌日が更新日という方がいます。
つまり、告知は「これから来る人」に向けた文章なのに、店には「もう約束が始まっている人」がいる。ここがずれています。
そして、このずれは当日まで表に出ません。表に出るのは会計のときです。お客様が財布を開けた瞬間に「あれ、前と違う」となり、その場で説明することになります。ひとりで回している店では、この説明が施術後の数分に集中します。1人なら耐えられますが、改定の直後は同じ会話が何十回も起きます。
もう1つ、あとから効いてくるずれがあります。過去の記録と新価格が混ざることです。改定日をまたいで数ヶ月経つと、同じメニュー名で違う金額の会計が並びます。「この人はいくらで受けたんだっけ」と聞かれたときに答えられるのは記録だけなので、ここを整えずに進むと、あとから遡って確認する作業が発生します。
だから最初の作業は、告知文を書くことでも金額を決めることでもありません。お客様を3層に分けるところから始めます。
価格が確定するタイミングで、お客様を3層に分ける
分ける基準は1つだけです。「その人の価格は、いつ確定したことになっているか」です。
| 層 | 価格が確定したタイミング | 決めるべきこと |
|---|---|---|
| ①これから予約する人 | まだ確定していない | なし(新価格で受ける) |
| ②改定日をまたぐ予約済み | 予約したとき/来店したとき(店が決める) | どちらを採るか、1つに決める |
| ③前払い・継続課金 | お金を受け取ったとき | 残り分・有効期限・買い直しの案内 |
紙に3行書いて、②と③の欄だけ埋めていきます。①は考える必要がありません。
ここで大事なのは、この3層は業態でもツールでも変わらないということです。紙の台帳で回していても、エクセルでも、予約システムを使っていても、②と③の人はいます。決め方が変わらないので、先に決めてから道具の話をするほうが早く済みます。
もう1点。②と③を同じルールで扱わなくてかまいません。②は「まだお金を受け取っていない約束」、③は「もう受け取ったお金」で、性質がまったく違います。同じ扱いにする理由がないので、別々に決めます。
②予約済みは「予約した日の価格」か「来店する日の価格」か
②の予約済みについて、店をまたいで通用する正解はありません。どちらを採ってもよく、決めていないことだけが問題です。
決める材料は3つです。
- 予約から来店までの平均的な間隔。1ヶ月先まで埋まる店ほど、旧価格の人が長く残ります。逆に1週間先までしか埋まらない店なら、旧価格で来る人は改定日から1週間で消えます。
- 告知から改定日までの猶予。猶予が2ヶ月あれば、その間に入る予約は「新価格になると知ったうえで取った予約」になります。猶予が2週間なら、知らずに取った人が多く残ります。
- 説明の手間と、旧価格で受ける金額の差。差額が数百円で、対象が20件なら、旧価格のまま通したほうが安く済むこともあります。差額が数千円で、対象が100件なら、話が変わります。
この3つを見ると、予約が先まで埋まる店ほど「来店する日の価格」を採りにくいことが分かります。3ヶ月先まで埋まる店で来店日基準にすると、3ヶ月前に予約した方が、聞いていない金額を当日に告げられることになるからです。
一方、当日〜数日先しか埋まらない店なら、来店日基準にしても対象がほとんど出ません。この場合は「改定日から一律で新価格」と決めるほうがシンプルです。
どちらに決めても、やることは同じです。告知文に1行入れておく。この1行があれば、当日の会計で説明する必要がなくなります。
〈②を決める前に確認する3点〉
- 改定日より後の枠に、すでに何件入っているかを数える(この件数が全体の判断材料になります)。
- そのうち改定の告知より前に入った予約が何件か(告知後に入った予約は、新価格でよいと判断しやすい層です)。
- 使っている予約台帳やツールで、改定前に入った予約の金額がどう扱われるか。予約時の金額を残すものと、会計時にメニューの現在価格を持ってくるものがあり、挙動はツールによって違います。告知を出す前に、テスト用の予約を1件作って改定後の状態を試しておくと、当日に驚かずに済みます。
3点目は見落とされやすいところです。「予約済みは旧価格のままにする」と決めていても、道具の側が来店日の価格を持ってくる作りなら、毎回手で直すことになります。決めたルールと道具の挙動が合っているかは、告知の前に確かめておきます。
③の前半:使いかけの回数券・コース券は、購入時の条件のまま使い切ってもらう
③は前払いと継続課金の2つに分かれます。まず前払いのほうから見ます。回数券・チケット・コース券・前売りの会員メニューなど、先にお金を受け取っているものです。
原則はシンプルです。購入時の条件のまま使い切ってもらいます。
理由は2つあります。1つは、お客様の側に「6回分の代金をすでに払った」という事実があること。もう1つは、後から差額を請求するのが、書面で事前に伝えていない限り難しいことです。「回数券の有効期間中に料金改定があった場合は差額を申し受けます」と購入時の案内に書いてあれば別ですが、多くの個人サロンでは書いていません。書いていない以上、受け取った代金の範囲で提供する形になります。
そのうえで、決めるのは3点だけです。
- 残り分をいつまで使えるか。既存の有効期限をそのまま維持するのが基本です。
- 有効期限を延ばすか。延ばすと親切ですが、延ばすほど旧価格での提供が長引きます。後述の法令の線にも関わるので、安易に延ばさないほうが無難です。
- 使い切った後、次に買うときの案内。ここが実は本題です。「次からは新価格になります」と、使い切る前に伝えておくかどうかで、印象が変わります。最後の1回を消化した会計のときに初めて知らされると、値上げそのものより「聞いていなかった」ことが引っかかります。
回数券の売上は、受け取った時点では前受金(サービスを提供する前に預かっているお金)として扱うのが原則です。この考え方は整骨院の回数券は「前受金」|都度払いと分けて管理する方法にまとめてあります。値上げの文脈で言えば、まだ提供していないサービスの代金を預かっているので、預かった条件で提供する、という整理になります。
有効期限を延ばす判断には、もう1つ気をつける点があります。回数券やチケットのように前払いで受け取るものは、法律上「前払式支払手段」に当たる場合があります。ただし、発行の日から6ヶ月以内に限って使えるものは規制の適用除外とされています(一般社団法人日本資金決済業協会「前払式支払手段発行業の概要」)。有効期限を6ヶ月以内で設計している店が多いのはこのためです。値上げに合わせて期限を延ばすと、この線をまたぐ可能性があります。金額の規模によって扱いが変わる領域なので、延長を検討するときは税理士や専門家に確認してください。
道具の話を1つだけ。回数券を扱えるツールを使っている場合、券種そのものを編集したり販売を止めたりしたときに、すでに販売済みの分がどうなるかを確認しておきます。販売済みは購入時の条件のまま維持されるものと、券種の変更が既存分にも及ぶものがあり、ここも挙動はツールによって違います。既存分に影響が出る作りなら、新価格用に別の券種を作って、旧券種は新規販売だけ止める形にします。
回数券のメニュー設計そのものについては回数券「初回有料・2回目以降無料」をシステムで管理する方法も合わせてご覧ください。
③の後半:月謝・月額会員は「次の更新日から」を基本線にする
同じ③でも、継続課金は前払いと扱いが変わります。月謝制、月額会員、サブスク型のコースなどです。
基本線は「次の更新日から新料金」です。理由は計算と説明の手間にあります。期の途中で切り替えると、日割りの計算が発生します。ひとりで回している店で、月の途中から新料金という形にすると、その月だけ全員分の按分を手で計算することになります。手間に見合いません。
決めるのは2点です。
- いつの更新分から新料金か。「10月1日以降の更新分から」のように、日付ではなく更新のタイミングで書きます。会員ごとに更新日が違う場合、日付で書くと途中の人が出ます。
- 何日前までに、何で伝えるか。継続課金は、お客様が能動的に確認しない性質のものです。掲示だけでは届きません。個別に届く手段(連絡先を控えているならメッセージ、来店時に手渡す紙)を1つ決めておきます。
ここで、既存会員を多く抱えている店にだけ起きる問題があります。料金だけを変えるつもりが、提供内容の見直しまで一緒に持ち出してしまうことです。「せっかく変えるなら、コースの中身も整理したい」と考えるのは自然ですが、既存会員が多いほど、中身を変えたときに影響を受ける人が増えます。結果として、料金改定そのものが動かなくなります。
料金だけ先に変え、中身の見直しは切り離す。これが、既存会員を抱えた状態で改定を進めるときの現実的な順序です。
「今のうちに」と煽る告知が、景品表示法に触れるとき
ここから、外部の一次情報を実務に落とします。値上げの告知でよく見る書き方に、法令上の線があります。
消費者庁は2020年12月25日に「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」を公表しています(消費者庁:将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針)。二重価格表示とは、販売価格の横に別の価格を並べて安さを訴える表示のことです。
ここで問題になるのは、まだ実施していない将来の価格を、比較の相手として持ち出す書き方です。値上げの告知に置き換えると、次のような文がこれに当たります。
9月1日より 8,000円 に改定します。8月中は現在の 6,500円 でご案内できます。
この書き方は「9月から8,000円で販売する」という前提で「今なら安い」と訴えるものです。消費者庁の執行方針では、一般消費者は比較対照とされた将来の販売価格に十分な根拠がある、つまりその価格で販売されることが確実だと認識すると考えられる、とされています。そのうえで、将来の販売価格で販売することが確かな場合以外に、この形の二重価格表示を行うことは適切でないと示されています。
実務に翻訳すると、こうなります。
- 告知した改定日から、告知した金額で実際に販売する。これができるなら、旧価格を併記する形の告知に問題はありません。
- 改定を延期したり、金額を下げたりする可能性が残っているなら、比較の形で書かない。「9月1日より8,000円に改定いたします」とだけ書き、旧価格を並べません。
- 「今だけ」「駆け込み」を前面に出すほど、この線に近づく。値上げ前の駆け込み需要を狙う書き方は、改定を確実に実行する覚悟とセットです。
ひとりサロンで実際に起きやすいのは、告知を出した後で「常連さんの反応が思ったより厳しかったので、やっぱり据え置こう」と迷うケースです。据え置く判断自体は自由ですが、旧価格を並べて「今のうちに」と告知した後で据え置くと、結果として上げるつもりのない価格を比較に使ったことになります。迷いが残っているうちは、旧価格を並べない書き方にしておくほうが安全です。
価格の見せ方そのものについてはサロンのメニュー価格は表示しない設定もあり|伏せ方と裏メニューの作り方も参考になります。
「その途中の人の場合ってどうすればいいんだろう」——3人のオーナーの声
ここで、実際に料金改定の場面に立ち会ったオーナーの声を紹介します。SALONAをご利用・ご検討中の事業者様へのヒアリングに基づき、特定できない形に匿名化して掲載します。
回数制の会員メニューを続けてきたオーナーAさん(仮名)は、それをシステムに移す作業の途中で、ふと手を止めてこう言いました。
「カラー 会員様みたいなのをやってて、なんかそれたんですけど、今なんか途中の人」
「いるじゃないですか。その途中の人の場合ってどうすればいいんだろうなと思って」
「今なんか途中の人」。この言い方に、③の層の実感が全部入っています。Aさんが困っていたのは、金額でも制度でもありません。すでに始まっている約束をどう畳むかが分からない、という一点です。
そして、この迷いが出てきたのは、料金の話をしていた場面ではありませんでした。これまでの運用をシステムに移そうとして、既存の会員をどう登録するかで手が止まったときです。つまり「途中の人」は、価格を変えるときにも、道具を変えるときにも、同じ形で現れます。どちらの場面でも、決めることは同じです。残り何回分を、どの条件で使ってもらうか。
別のオーナーBさん(仮名)は、改定の直前にメニューの棚卸しをしている最中に、こう言いました。
「あの、えっと、8 月から値上げ」
「をするんですけど」
このときBさんがしていたのは、値上げの意思決定ではありません。手元のメニューを1つずつ、登録した内容と突き合わせて確認する作業でした。90分のコースをはじめ、確認すべきメニューがいくつも並んでいる。その確認の途中で、8月からの改定の話が出てきたわけです。
ここが実務の肝です。料金改定は「価格を書き換える作業」ではなく、「過去分と新価格が混ざった記録を整理する作業」です。金額を決めるところまでは机の上で終わりますが、そのあとに、扱っていないメニューを畳み、過去の会計はそのまま残し、新しい価格を並べ直す作業が続きます。改定日の1ヶ月前にこの棚卸しを済ませておくと、当日は本当に金額を書き換えるだけになります。
3人目は、月謝制で会員を多く抱える業態のオーナーCさん(仮名)です。プランの設計を変える話になったとき、こう返しました。
「え、既存の客さんがいっぱいいるので、え、買えないでた方がいいですけどね」
聞き取りの文字起こしなので言葉が崩れていますが、趣旨は「変えないでいた方がいい」です。既存の会員がたくさんいるから、プラン全体には手を入れないほうがいい、という判断です。
これは値上げそのものへのためらいではありません。既存会員を抱えた店では、料金表を1枚差し替えるという行為の重さが違う、という話です。新規のお客様しかいない店なら、価格表を書き換えれば終わります。会員が100人いる店では、書き換えた瞬間に100人分の「聞いていた条件」との差が生まれます。
だからこそ、先ほどの「料金だけ先に変え、中身の見直しは切り離す」が効きます。Cさんが避けたかったのはプラン全体の作り替えであって、料金の1行を動かすことではありません。変える範囲を最小にすれば、既存会員が多い店でも動かせます。
3人の声は、それぞれ別の場面のものです。ただ、共通しているのは1点で、引っかかっているのは金額ではなく「すでに始まっている人」の扱いでした。
決めた3行を、告知文にそのまま入れる
ここまでで決めた内容を、告知文に落とします。文面の型はこうなります。
【料金改定のお知らせ】
〇〇年〇月〇日(〇)より、下記メニューの料金を改定いたします。
(改定内容の表)
■ すでにご予約いただいているお客様
〇月〇日より前にお取りいただいたご予約は、
ご来店が〇月〇日以降であっても、これまでの料金でご案内いたします。
(または:ご来店日の料金でのご案内となります)
■ 回数券・コース券をお持ちのお客様
お手持ちの残り回数は、ご購入時の内容のままお使いいただけます。
有効期限も変更ありません。
次回以降の新しいご購入から、改定後の料金となります。
■ 月額会員のお客様
〇月〇日以降の更新分から、改定後の料金となります。3つの見出しがそのまま、先ほどの3層です。この3行があるかどうかで、当日の会計での説明量が変わります。1行も書かずに出すと、同じ質問を来店のたびに受けます。
置く場所は3ヶ所です。
- 店内の掲示(レジ横など、会計のときに目に入る場所)
- 予約ページ/メニュー表(新規の方が最初に見る場所)
- 既存のお客様に個別に届く手段(連絡先を控えているならメッセージ、来店時に手渡す紙)
3つ目が抜けやすいところです。①の掲示と②のページは「これから来る人」には届きますが、当分来店予定のない回数券保有者や、しばらく間が空いている会員には届きません。この層こそ、改定後に久しぶりに来て驚く層です。
改定後しばらくは「どの価格で会計したか」を残す
告知を出して改定日を迎えたら、最後にもう1つやることがあります。改定後しばらくの間、どの価格で会計したかを残しておくことです。
理由は単純で、後から「前と違う」と言われたときに答えられるのは記録だけだからです。値上げの直後は、同じメニュー名で2つの金額が並ぶ期間が発生します。旧価格で通した予約済みの方と、新価格の方が混ざるからです。この期間に会計した内容を残しておかないと、3ヶ月後に照会が来たときに調べようがありません。
残す内容は3つで足ります。
- お会計の日と金額(これは通常の記録に入っています)
- 旧価格・新価格のどちらで通したか(予約済み扱いなのか、通常の新価格なのか)
- 回数券・会員での利用だったか(代金は前に受け取っているので、その日の金額はゼロか差額のみになります)
紙の台帳なら、改定日から2〜3ヶ月の間だけ、備考欄に「旧」と書くだけで足ります。仕組みは要りません。
そしてもう1つ。過去の会計を遡って書き換えないでください。値上げしたからといって、過去の売上記録の金額を新価格に直すと、その月の売上が実際と合わなくなります。過去は過去の金額のまま残し、新価格は改定日以降の会計にだけ適用します。当たり前に聞こえますが、メニュー表と過去の記録が連動している道具を使っていると、意図せず起きることがあります。改定の前に、過去の会計が変わらないかを1件だけ確かめておくと安心です。
よくある失敗とNG
料金改定でつまずきやすい点を挙げます。
- 「〇月から値上げします」だけ告知して、3層に触れない。いちばん多い形です。改定日以降、会計のたびに個別説明が発生します。決めていないので説明の内容も毎回ぶれ、お客様ごとに違う扱いになります。
- 予約済みの扱いを、当日その場で決める。目の前のお客様の反応を見て決めると、人によって違う答えを出すことになります。それが伝わったときのほうが、値上げそのものより印象が悪くなります。
- 回数券の残り分に差額を請求する。購入時の案内に書いていなければ、後から求めるのは難しいところです。書いていないなら、預かった条件で使い切ってもらう形にします。
- 回数券の有効期限を、値上げのお詫びとして無条件に延ばす。旧価格での提供期間が延びるうえ、前払式支払手段の規制の線に近づく可能性があります。延ばすなら、規模も含めて専門家に確認します。
- 月額会員を、期の途中から新料金にする。日割りの計算と個別の説明が全員分発生します。次の更新分からにすれば、この手間はゼロになります。
- 旧価格を並べて「今のうちに」と告知した後で、改定を取りやめる。将来の販売価格を比較対照とする二重価格表示の考え方に照らして、避けたい形です。迷いがあるうちは旧価格を並べません。
- 料金と一緒にコースの中身も変えようとする。既存会員が多い店ほど重くなり、改定そのものが止まります。切り離します。
- 告知を掲示と予約ページだけで済ませる。しばらく来店していない層に届きません。この層が、改定後にいちばん驚きます。
- 道具の挙動を確かめずに告知を出す。「予約済みは旧価格のまま」と決めても、道具側が来店日の価格を持ってくるなら毎回手で直すことになります。テスト用の予約を1件作って確かめてから告知します。
- 値上げの理由に、施術の効果や効能を持ち出す。「より高い効果を出すために」といった説明は、業態によっては広告規制に触れます。理由を書くなら、材料費・技術習得・時間配分といった原価と提供内容の話にとどめます。
業態別の差分メモ
3層のどこが厚いかは業態で変わります。厚いところから決めると早く終わります。
- 美容室:②の予約済みが厚い業態です。次回予約を取る運用をしている店ほど、改定日より後の枠がすでに埋まっています。まず②を決め、そのうえで③(会員メニューを持っているなら)に進みます。カラーやトリートメントで独自の会員制を組んでいる店では、③が紙で管理されていることが多く、対象者の洗い出しに時間がかかります。改定日の逆算に、この洗い出しの時間を含めておきます。
- ネイル・まつげ:来店周期が短く、予約から来店までの間隔も短めなので、②はすぐ消化されます。一方でオフ料金や付け替え割引など、条件つきの価格を持っていることが多く、その条件価格も一緒に改定するかどうかを決める必要があります。基本メニューだけ上げて条件価格を据え置くと、差額の意味が変わります。
- エステ・脱毛:③が最も厚い業態です。回数券やコース契約が中心で、1件あたりの金額も大きくなります。契約書や申込書の控えに「料金改定時の扱い」が書いてあるかを先に確認します。書いてあるならそれに従い、書いていないなら購入時の条件で使い切ってもらう形にします。金額規模が大きいので、前払式支払手段の扱いについては専門家に確認しておくほうが確実です。
- 月謝制・スクール型:③の継続課金が中心です。会員ごとに更新日が違うことが多いので、日付ではなく「更新分から」で告知します。既存会員が多いほど、料金以外の条件(回数、時間、振替の扱い)に手を入れると影響範囲が広がります。料金の1行だけを動かします。
- 自費の整体・鍼灸など:回数券と都度払いが混在しているケースが多く、②と③の両方に対応が要ります。値上げの理由を書くときは、施術の効果や効能に触れる表現を使わず、時間配分や使用する物品、来院間隔の設計といった提供内容の説明にとどめます。2025年のあはき柔整の広告ガイドライン改正で、ホームページやSNS、地図サービスの表示まで規制の対象になっています。
まとめ
サロンの値上げで揉めるのは、金額ではなく「改定日をまたぐお客様」の扱いを決めていないときです。やることは4つでした。
- お客様を3層に分ける。①これから予約する人(新価格)、②改定日をまたぐ予約済み、③前払い・継続課金。
- ②は「予約した日の価格」か「来店する日の価格」か、どちらかに決める。材料は、予約から来店までの間隔、告知から改定日までの猶予、説明の手間と差額の大きさです。
- ③の前払いは購入時の条件のまま使い切ってもらうのが原則。決めるのは残り分・有効期限・買い直しの案内の3点です。継続課金は次の更新分からにすると、日割りの計算が要りません。
- 決めた3行を告知文にそのまま入れ、3ヶ所に置く。掲示・予約ページ・既存客への個別の連絡です。
告知の書き方には1つだけ法令上の線があります。旧価格を並べて「今のうちに」と訴えるなら、告知した日から告知した金額で実際に販売すること。迷いが残っているうちは、旧価格を並べない書き方にしておきます。
そして改定後は、2〜3ヶ月の間だけ「どの価格で通したか」を記録に残します。過去の会計は書き換えません。ノート1枚と30分で、3行は今日書けます。
改定日をまたぐ記録を1か所に残すなら
予約済みの扱いを決めても、実際に旧価格で通すのは会計の場です。SALONA(サローナ)では、予約が入った時点のメニュー価格と所要時間を予約ごとに保存しているので、メニュー本体の価格を改定しても、改定前に入っていた予約は予約時の金額のままお会計に引き継がれます。過去の売上記録も当時の金額のまま残ります。回数券は券種を編集したり新規の販売を止めたりしても、販売済みの分は購入時の内容のまま使えます。月額会員も、新規の募集だけ止めて登録済みの会員はそのまま続けられます。改定日をまたぐ3層の記録を、手で直さずに残せます。
よくある質問(FAQ)
Q. サロンの値上げで、予約済みのお客様は旧価格と新価格のどちらにすべきですか。
A. 店をまたいで通用する正解はなく、どちらを選んでもかまいません。決める材料は3つで、予約から来店までの平均的な間隔、告知から改定日までの猶予、説明の手間と差額の大きさです。予約が1ヶ月以上先まで埋まる店なら、旧価格のまま通すほうが噛み合います。当日〜数日先しか埋まらない店なら、改定日から一律で新価格にしてもほとんど対象が出ません。大事なのはどちらに決めるかより、決めた内容を告知文に1行入れておくことです。この1行があれば、当日の会計で説明する必要がなくなります。
Q. 使いかけの回数券は、値上げ後に差額をいただけますか。
A. 購入時の案内や契約書に「料金改定時は差額を申し受ける」と書いていない限り、後から求めるのは難しいところです。すでに代金を受け取っているので、購入時の条件のまま使い切ってもらう形が原則になります。決めるべきは、残り分の有効期限をそのままにするか、そして使い切る前に「次回のご購入から新価格になります」と伝えておくかの2点です。最後の1回の会計で初めて知らされると、値上げそのものより「聞いていなかった」ことが引っかかります。なお、有効期限を延ばす判断は前払式支払手段の規制に関わる場合があるので、税理士や専門家にご確認ください。
Q. 月額会員の料金は、いつから新料金にするのが自然ですか。
A. 「次の更新分から」が基本線です。期の途中で切り替えると日割りの計算が発生し、会員ごとに個別の説明が要ります。会員によって更新日が違う場合は、「10月1日から」ではなく「10月1日以降の更新分から」と書きます。日付で書くと、10月中に更新日が来る人と来ない人で扱いが割れます。伝え方は掲示だけでは届かないので、個別に届く手段を1つ決めておきます。既存会員が多い店では、料金だけを先に変え、コースの中身の見直しは切り離すと動かしやすくなります。
運営: 株式会社art crat./SALONA編集部
公開日: 2026-08-02 最終更新: 2026-08-02
本記事のお客様の声は、SALONAをご利用・ご検討中の事業者様へのヒアリングに基づき、特定できない形に匿名化して掲載しています。
参照: 消費者庁「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」(令和2年12月25日)/消費者庁「二重価格表示」/一般社団法人日本資金決済業協会「前払式支払手段発行業の概要」