カルテ・問診票・同意書

サロンの顧客情報管理と個人情報の守り方|棚卸しから廃棄まで

29分で読める

サロンの顧客情報の管理は、個人情報の「置き場所」を書き出すところから始めます

お客様の氏名も、連絡先も、施術の履歴も、写真も、同意書も、すべてお店が預かっているものです。それを紙のカルテと、自宅の棚と、自分のスマートフォンと、トークアプリと、ツールの中に、分けて持っている。これがひとりサロンの普通の状態です。何から手をつければいいのか分からないのは、守る対象が散らばっているからです。結論から書くと、最初にやるのは規程を作ることではなく、何を・どこに預かっているかを1枚に書き出すことです。

この記事でわかること

  • 顧客情報の棚卸しのやり方と、危ないのはたいてい「棚卸しから漏れた場所」である理由
  • 持ち出せる経路の潰し方(確認する5点)と、見せる範囲を3段で決める方法
  • カルテをいつまで持つかの決め方と、紛失や漏えいが起きたときに最初にやること
この記事の立場について
この記事は、サロン向けの予約・顧客管理システム SALONA(サローナ) を提供する 株式会社art crat. が運営しています。本文で扱うのは、紙のカルテとスマートフォンだけで回しているお店でも、そのまま実行できる範囲の話です。なお、個人情報の取り扱いについての法的な判断はこの記事ではできません。記載は2026年8月14日時点の公的資料に基づくもので、ご自身の店舗の事情に当てはめて確認したい場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。

結論:規程より先に、この5つを順番に決めます

先に答えを書きます。顧客情報の扱いは、次の順で決めていきます。

  1. 棚卸し — 何を、どこに預かっているかを1枚に書き出す。紙と電子の両方を、置き場所ごとに並べます。
  2. 経路を減らす — 鍵をかけるより先に、持ち出せる状態になっている場所を潰します。
  3. 見せる範囲を決める — 自分だけ/手伝いの人/業務委託/辞めた人。3段で線を引き、辞めるときの手順を先に決めます。
  4. 期限を決める — いつまで持つか、どう捨てるか。年数を自店で決めて書いておきます。
  5. 伝え方と、起きたときの動き方を決める — 何に使うかをひと言で示し、紛失時に最初にやることを1枚メモにしておきます。

順番に意味があります。2を1より先にやると、書き出していない場所が守られないまま残ります。そして3を後回しにすると、人が辞めるときに慌てます。

もうひとつ、先に押さえておきたいことがあります。「うちは名簿が数百人だから対象外では」と考える方がいますが、そうではありません。個人情報保護委員会は、個人情報データベース等を事業の用に供している者であれば「当該個人情報データベース等を構成する個人情報によって識別される特定の個人の数の多寡にかかわらず、個人情報取扱事業者に該当します」としています。かつて5,000人分以下は除外されていましたが、平成29年5月30日の施行後は「これらの者も個人情報取扱事業者に該当することとなりますので、注意が必要です」と明記されています(個人情報保護委員会 ガイドラインQ&A Q1-50・2026年8月14日確認)。

ただし、身構える必要はありません。同じ委員会が「中小規模事業者において、必ずしも大企業と同等の安全管理措置を講じなければならないわけではありません」とも述べています(同 Q10-5・2026年8月14日確認)。対象ではあるが、大企業と同じことを求められているわけではない。この2点が出発点です。

ひとりサロンの弱点は、店と自宅と自分のスマホの境界がないこと

顧客情報でつまずく原因は、たいていセキュリティの知識ではありません。器が分かれていないことです。

会社であれば、業務のデータは業務の端末に入っています。持ち出すには手続きが要り、見る人も限られます。境界が最初から引かれているので、規程はその境界を文章にしたものになります。

ひとりサロンでは、この前提が成り立ちません。

  • 予約の連絡は、自分のスマートフォンのトークアプリに来ます。私用の連絡と同じ画面です。
  • 施術の写真は、自分のカメラロールに入ります。家族の写真と同じフォルダです。
  • 紙のカルテは、閉店後に自宅へ持ち帰ることがあります。翌朝また店に戻します。
  • 会計や売上の記録は、家族と共用のパソコンで開くことがあります。
  • パスワードは、自分が覚えられる範囲で使い回します。

どれも悪意のある運用ではありません。ひとりで回すには合理的な形です。ただ結果として、お客様の情報が、生活の器の中に混ざっている状態になります。

そして事故は、こういう混ざり目から起きます。カメラロールが自動でクラウドに上がっていて、家族の端末にも同期されていた。共用パソコンにログインしっぱなしで、別の人が開けた。カルテを入れた鞄を電車に置き忘れた。どれも「セキュリティ対策をしていなかった」というより、そこがお客様の情報の置き場所だと認識していなかったことが原因です。

だから最初の作業が棚卸しになります。危ないのは、鍵をかけ忘れた場所ではなく、棚卸しから漏れた場所です。

何を・どこに預かっているかを1枚に書き出す

紙を1枚用意して、2列の表を書きます。左に「預かっているもの」、右に「置き場所」。思いつく順で構いません。

預かっているもの置き場所の例
氏名・ふりがな紙のカルテ/予約や顧客管理のツール/表計算ソフトのファイル
電話番号・メールアドレス自分のスマートフォンの連絡先/トークアプリの友だち/予約の受付画面
住所・生年月日紙のカルテ/問診票の原本/会員登録の情報
施術の履歴・使った薬剤・要望紙のカルテ/電子カルテ/自分のメモ帳・手帳
施術前後の写真スマートフォンのカメラロール/クラウドの自動バックアップ/SNSの下書き
問診票・同意書の原本紙のファイル/タブレットの中/メールの添付ファイル
お客様とのやり取りトークアプリのトーク履歴/SMS/メール/DM
支払いの記録レシートの控え/会計ツール/通帳・決済サービスの画面
体調・お悩みの申告問診票/カルテの備考欄

書き出してみると、多くの場合で置き場所のほうが数が多くなります。同じ電話番号が、紙のカルテにも、スマートフォンの連絡先にも、トークアプリにも、ツールの中にもある。これが普通です。

ここで大切なのは、置き場所を減らすことではありません。まず全部を見えるようにすることです。減らすかどうかは次の段階で決めます。

3つだけ、書き漏らしやすい場所を挙げておきます。

1つ目は、自分の頭の中と手帳です。「あの方はいつも◯◯」という覚え書きは、カルテに書いていなくても顧客情報です。手帳に書いてあるなら、手帳も置き場所の1つです。

2つ目は、過去に使っていたツールや端末です。乗り換え前の予約システムのアカウント、買い替える前のスマートフォン、使わなくなった表計算ファイル。使っていないだけで、中身は残っています。

3つ目は、名簿が重複している状態です。同じお客様が別々の登録として複数ある場合、片方だけ整理しても、もう片方は残ります。名簿の重複そのものの直し方はサロンの予約で顧客が重複登録される|名簿を1つにまとめる方法にまとめてあります。棚卸しの前後で一度そろえておくと、この先の作業が楽になります。

なお、施術写真をSNSに載せる場合の同意の取り方は、この記事とは別の論点です。掲載の可否と記録としての保存は分けて考える、とだけ覚えておいてください。

持ち出せる状態になっている場所から潰す(確認する5点)

棚卸しができたら、次は「鍵をかける」ではなく「持ち出せる経路を減らす」から入ります。順番を逆にすると、鍵をかけた金庫の隣に、鍵のかかっていない裏口が開いたままになります。

確認するのは次の5点です。上から順に見ていきます。

① 端末の画面ロックと、自動でロックがかかるまでの時間

スマートフォン、タブレット、パソコン。それぞれに画面ロックがかかっているか。そして、放置したときに自動でロックがかかるまでの時間がどれくらいか。施術中に受付へ置きっぱなしにする端末ほど、この時間が効いてきます。ロックの方式や設定できる時間は端末によって違うので、自店の端末で確認します。

② 写真の自動バックアップ先

施術写真を撮っている場合、見落とされやすいのがここです。多くの端末は、撮った写真を自動でクラウドへ上げる設定を持っています。その保存先が個人のアカウントで、家族の端末とも共有されていることがあります。確認するのは3つです。写真が自動で上がる設定になっているか。上がる先はどのアカウントか。そのアカウントを開ける端末が他にあるか。

③ 家族と共用の端末・共用のアカウント

自宅のパソコンで売上や名簿を開いているなら、そのパソコンを他に誰が使うかを確認します。同じアカウントでログインしているなら、ログインしたままの画面はそのまま開けます。この場合、器を分けるいちばん簡単な方法は、端末を分けるのではなく、使う人ごとにログインを分けることです。

④ パスワードの使い回し

ひとりで運用していると、覚えられる範囲でパスワードをそろえたくなります。ただ、使い回しは1か所が破られたときに全部が開く形になります。全部を別々にするのが難しければ、お客様の情報が入っているものだけは他と別にするところから始めます。

⑤ 持ち出す紙

自宅と店を往復する紙のカルテ、問診票の原本、予約表の印刷。紙は鍵がかからないぶん、置き忘れが直接そのまま漏えいになります。まず「持ち出す必要がある紙はどれか」を確認して、持ち出さなくて済むものを店に置きます。持ち出す必要がある紙が減らないなら、電子化を検討する段階です。紙から電子への移し方はサロンの電子カルテとは?紙カルテからの移行手順とメリットサロンの手書きカルテを電子化する方法|人型図・スケッチの残し方にまとめてあります。

この5点は、どれも1つずつなら10分程度で確認できます。まとめてやろうとすると手が止まるので、1日1つで構いません。

見せる範囲を3段で決める

ここから先は、ひとりで回している間は実感しにくく、人が増えた瞬間に効いてくる話です。手伝いに入ってもらう方、業務委託の方、そして辞めた方。それぞれに、どこまで見せるかを決めておきます。

線は3段で引くと考えやすくなります。

見える範囲想定する相手
1段目予約の日時とメニューだけ受付だけをお願いする方、シフトの調整だけをする方
2段目自分が担当したお客様の情報だけ施術に入るスタッフ、業務委託の施術者
3段目名簿・カルテ・売上まで全部オーナー(自分)

線を引くときの考え方は1つです。その人が仕事をするために要る範囲か。要らない情報まで見える状態は、その人にとっても負担になります。何かあったときに、疑われる範囲が広くなるからです。

そして、ここがいちばん抜けやすいところです。

辞めるときの手順を、雇う前に決めておきます。

辞めると決まってから考えると、気まずさが判断を鈍らせます。先に決めておけば、事務手続きとして淡々と進められます。決めておくのは3つです。

  1. アカウントを止める。 いつ止めるか(最終出勤日か、翌日か)を先に決めます。
  2. 共用のパスワードを変える。 共用のものが1つでもあるなら、退職を機に変えます。
  3. 紙を回収する。 持ち出していた紙、控え、メモ。何を渡していたかを記録しておくと、回収漏れが減ります。

なお、雇用や業務委託の契約でどこまで定められるかは、労務・契約の話になります。ここは記事の範囲を超えるので、契約書に何を書くかは社会保険労務士や弁護士にご相談ください。この記事で扱うのは、契約とは別に、情報の側で線を引いておく部分です。

売上や給与をスタッフにどこまで見せるかは、これとは別の判断軸になります。顧客情報の線引きとは分けて考えてください。

いつまで持つか・どう捨てるか

「カルテは何年保管すればいいですか」という質問には、業態によって答えが変わります。ここは根拠が分かれるので、順に整理します。

まず、個人情報保護法には保存期間の定めがありません。個人情報保護委員会は「個人情報保護法では、個人情報の保存期間や廃棄すべき時期について規定していません」としたうえで、「個人情報取扱事業者は、その取扱いに係る個人データを利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければなりません(法第22条)」と述べています(個人情報保護委員会 ガイドラインQ&A Q5-2・2026年8月14日確認)。

つまり、年数を決めているのは個人情報保護法ではないということです。年数が法令で決まっているのは、業種ごとの別の法律による場合です。

医療分野には、法令上の保存年限があります。医師法第24条第2項は、診療録について「五年間これを保存しなければならない」と定めています(医師法・2026年8月14日確認)。医療機関のカルテに5年という数字がついて回るのは、これが根拠です。

一方、美容室・ネイル・まつげ・エステといった自費のサロンについては、カルテの保存年限を一律に定めた法令が見当たりません。ここが混乱のもとです。「5年」という数字だけが業界に伝わっていて、根拠が自店に当てはまるかどうかは確かめられていない、という状態がよくあります。

なお、整体・整骨院・鍼灸などで保険(療養費の受領委任)を取り扱っている場合は、施術録の保存についての別の枠組みがあります。自費のみの運用とは前提が異なるため、該当する場合は所管の厚生局や所属する団体にご確認ください。

では、自費のサロンはどうするか。実務解はこうです。

自店で年数を決めて、書いておく。

決め方の目安を挙げます。

  • 来店周期から逆算する。 3か月に1度のご来店なら、5年で20回分の履歴が残ります。実際に見返すのは直近数回分であることが多いので、そこから考えます。
  • 確定申告に関わる記録は別扱いにする。 売上や経費の書類は、税務上の保存期間が別にあります。カルテの年数と混ぜないようにします。
  • 決めた年数は、お客様に伝えられる形にしておく。 同意書や問診票に「保存期間は◯年」と書けるかどうかが、判断の基準になります。書けない年数は、決めきれていない年数です。

そして、捨て方も一緒に決めます。ここを決めていないと、「期限は決めたが捨てていない」状態が続きます。

紙の場合。シュレッダーにかけるか、溶解処理を頼みます。そのまま資源ごみに出さない、というのが最低限の線です。処分する日を決めておく(年に1度、閉店日にまとめて等)と、続きます。

電子化したあとの紙の原本。ここは判断が要ります。電子化してすぐ捨てると、取り込みの失敗に気づいたときに戻せません。一定期間は原本を残し、期間が過ぎたら処分するという二段構えにしておくと安全側に寄ります。期間は、電子化したデータを実際に何度か使ってみて、問題がないと確認できるまでが目安です。

端末を買い替えるとき。ここも抜けやすいところです。下取りに出す、家族に譲る、リサイクルに出す。いずれの場合も、中のデータをどう消すかを先に確認します。アプリを消すこととデータが消えることは別です。初期化の方法は端末によって違うので、その端末の手順を調べてから手放します。買い替えを決めてから調べるのではなく、買い替える前に調べるほうが確実です。

お客様に伝えることと、起きたときの動き方

最後は、外向きの話です。2つあります。

1つ目は、何に使うかを伝えておくこと。

顧客情報を何のために使うのかを、ひと言で示しておきます。難しい文章は要りません。「ご予約の確認、施術の記録、次回のご案内のために使わせていただきます」で足ります。問診票の下、同意書の中、予約フォームの注意書き。お客様が読める場所に1か所あれば構いません。

書いておく利点は2つあります。お客様に説明できることと、自店が「そこまでしか使わない」と決められることです。書いていないと、あとから「一斉のご案内に使ってよいのか」で迷います。

書式そのものについては、同意書の作り方がまつげの同意書テンプレート無料|当日その場でタブレット署名する方法、問診票の運用が整骨院・整体院のweb問診票をiPadで運用する|受付を短くする手順にまとめてあります。利用目的の一文は、どちらの書式にも入れられます。

2つ目は、何かあったときの動き方を、先に1枚メモにしておくこと。

紙のカルテを紛失した。端末をなくした。アカウントに知らない場所からのログインがあった。こうしたときに、その場で考えると手が止まります。決めておくのは4つです。

  1. 止める。 端末の紛失なら、遠隔でロックや消去ができるかを確認します。アカウントなら、パスワードを変えてログイン中の端末を切ります。ここを最優先にします。
  2. 範囲を確かめる。 何が入っていたか。誰の情報か。何人分か。棚卸しの1枚があると、ここが早くなります。
  3. 記録する。 いつ、何が起きて、何をしたか。時系列で書きます。あとで説明が要るときの土台になります。
  4. 相談先を決めておく。 弁護士、加入している保険の窓口、所属する団体。連絡先を1枚メモに書いておきます。

なお、漏えい等が起きた場合に個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務づけられる場面が、法律上定められています。委員会は報告の対象を4つの類型で示しており、「要配慮個人情報が含まれる事態」「財産的被害が生じるおそれがある事態」「不正の目的をもって行われた漏えい等が発生した事態」「1,000人を超える漏えい等が発生した事態」が挙げられています。報告は速報と確報の二段階で、速報は「速やか(概ね3~5日以内)」とされています(個人情報保護委員会 漏えい等報告・本人への通知の義務化について・2026年8月14日確認)。

ここで知っておきたいのは、「1,000人を超える」だけが対象ではないという点です。小さなお店で該当し得るのは、むしろ他の類型のほうです。健康状態やお悩みの申告を記録しているなら、その扱いは一段慎重にしておく理由がここにあります。実際に該当するかどうかは個別の判断になるので、起きたときは早い段階で専門家に相談してください。

委員会が求める「安全管理措置」を、ひとりサロンの言葉に置き換える

ここが、この記事でいちばん役に立つ部分だと思います。

個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)には、「講ずべき安全管理措置の内容」として7つの項目が並んでいます。基本方針の策定、個人データの取扱いに係る規律の整備、組織的安全管理措置、人的安全管理措置、物理的安全管理措置、技術的安全管理措置、外的環境の把握です(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)・2026年8月14日確認)。

言葉だけ見ると、ひとりのお店には縁がなさそうに見えます。ただ、中身をサロンの日常に置き換えると、ここまでに書いてきたことと重なります。

ガイドラインの項目ひとりサロンでの置き換え
基本方針の策定「顧客情報は予約・施術記録・次回のご案内に使う」と、ひと言で決めて書いておく
取扱いに係る規律の整備棚卸しの1枚。何を・どこに置き、いつまで持ち、どう捨てるかを書いた紙が、これに当たる
組織的安全管理措置見せる範囲の3段。誰が何を見られるか、辞めるときに何を止めるかを先に決めておく
人的安全管理措置手伝いの方・業務委託の方に、入る前に伝える。持ち出さない、私用の端末に写さない、の2つで足りる
物理的安全管理措置紙の置き場所と鍵、持ち出す紙を減らすこと、端末を手放すときのデータの消し方
技術的安全管理措置画面ロック、パスワードを他と分ける、ログインを人ごとに分ける
外的環境の把握使っているツールやクラウドのデータがどこに保管されるかを、契約前に確認しておく

7項目のうち、5つはこの記事の1〜4でやっていることです。特別な作業が足されているわけではありません。

そして、ここで冒頭のQ10-5が効いてきます。委員会は「中小規模事業者において、必ずしも大企業と同等の安全管理措置を講じなければならないわけではありません」としています。ガイドラインの中でも、中小規模事業者向けの手法の例示が別に示されています。

補足として、ガイドラインが言う「中小規模事業者」は、従業員の数などを基準に区分されており、取り扱う個人情報の数が多い事業者などは除かれる形になっています。名簿が大きく育ってきたお店は、自店がどちらに当たるかを一度ガイドライン(通則編)の原文で確認しておくと確実です。「ひとりだから軽くていい」ではなく、「規模に応じた内容でよい」というのが、委員会の言っていることの中身です。

規程を作る前に、境界を1本引く

ここからは、ひとりサロンだからこそ効く考え方を1つだけ書きます。

会社は、規程で情報を守ります。文書があり、それを運用する人がいて、守られているかを見る人がいます。三者がそろって初めて、規程は機能します。

ひとりサロンには、この三者がいません。書いた人と運用する人と見る人が同じです。だから、立派な規程を作っても、作った翌週には誰も読み返さない紙になります。テンプレートを埋めて満足したまま、カメラロールの自動バックアップは個人のクラウドに向いたまま——という順序の逆転が起こりやすいのは、このためです。

代わりに引くのは、境界です。1本で構いません。

お客様の情報が入る器を、自分の生活の器と分ける。

具体的には、次のどれか1つから始めます。

  • アカウントを分ける。 家族と共用のパソコンを買い替える必要はありません。ログインを分けるだけで、器は分かれます。
  • 写真の置き場所を分ける。 施術写真だけを別の場所に入れる。カメラロールから離すのが難しければ、まず自動バックアップの先だけを確認します。
  • 持ち帰る紙をゼロにする。 持ち帰る理由が「自宅で書き足すため」なら、書き足す作業を店で終える段取りに変えられないかを考えます。

なぜ境界かというと、境界が引けていれば、規程がなくても説明できるからです。「お客様の情報は、この端末のこのログインの中にあります。私しか開けません。紙は店から出しません」。これだけ言えれば、お客様にも、手伝いに入る方にも、説明が成り立ちます。

逆に、境界が引けていないと、どれだけ文章を整えても説明が濁ります。「基本的には管理しています」としか言えないのは、器が混ざっているからです。

もうひとつ。境界を引く作業には、気づきが伴うという利点があります。アカウントを分けようとすると、共用のパソコンで何を開いていたかを思い出します。写真の置き場所を分けようとすると、自動バックアップの設定を初めて開きます。棚卸しの1枚に書き漏らした場所は、たいていこの過程で出てきます。規程を書く作業には、この気づきがありません。手を動かして器を分ける作業にだけ、それがあります。

規程は、境界を引いたあとに書きます。順番が逆だと、実態のない文章になります。

顧客情報の扱いでよくある失敗

  • 「うちは小さいから対象外」と考える。 冒頭のとおり、扱う人数の多寡で対象かどうかが決まるわけではありません(Q1-50)。対象だと知ったうえで、規模に応じた内容にするのが正しい形です。
  • 鍵をかけることから始める。 パスワードを複雑にしても、鞄に入れて持ち歩く紙は守られません。棚卸し→経路を減らす、の順番を崩さないようにします。
  • 写真の自動バックアップを確認しないまま運用する。 端末まかせになりやすく、抜けやすいところです。撮る運用を始める前に、上がる先を確認します。
  • 辞めるときの手順を、辞めると言われてから考える。 アカウントの停止も、パスワードの変更も、紙の回収も、その場で判断すると角が立ちます。雇う前に決めておけば、事務手続きとして進められます。
  • 前に使っていたツールのアカウントを放置する。 乗り換えたあと、解約せずに残しているケースがあります。中の名簿はそのままです。乗り換えの作業リストに「旧ツールの扱いをどうするか」を入れておきます。
  • 保存期間を決めないまま、ずっと持ち続ける。 法律が年数を決めていない以上、決めるのは自店です(Q5-2)。決めていない状態は、無期限に持つと決めたのと同じことになります。
  • 電子化したその日に紙を捨てる。 取り込みの失敗に気づいたときに戻せません。一定期間は原本を残す形にします。
  • 端末を手放すときに、データの消し方を調べない。 アプリを削除してもデータが残る場合があります。手放す前に、その端末の初期化の手順を確認します。
  • 決めたことを、自分の頭の中にだけ置く。 1枚の紙に書いておかないと、半年後に同じことを考え直すことになります。手伝いの方に伝えるときにも、紙があるほうが早く済みます。

業態で変わるところ

美容室・ネイル・まつげ … 施術写真の量がいちばん多くなる業態です。仕上がりを残す運用が定着しているぶん、カメラロールとクラウドの確認が効きます。あわせて、SNS掲載の同意と、カルテに残すための同意は別のものとして扱ってください。掲載を断られた場合でも、記録としての写真をどう扱うかは分けて決めておきます。指名でご来店いただく関係が長く続くほど、履歴も長く残ります。保存期間を決めるときは、実際に見返す回数から逆算します。

エステ・ボディケア・フェイシャル … 体の状態やお悩みの申告を記録することが多い業態です。この種の記録は、氏名や連絡先とは扱いの重さが変わり得ます。実際に法律上どの区分に当たるかは個別の判断になりますが、判断を待たずに、一段慎重な置き場所にしておくのが現実的です。具体的には、他の情報と同じ紙に並べて書かない、写真と一緒に持ち出さない、といった扱いになります。

整体・整骨院・鍼灸などの治療院(自費) … 2点あります。1点目は保存期間で、保険(療養費の受領委任)を取り扱っている場合は施術録についての別の枠組みがあるため、自費のみの運用と混ぜないことです。該当する場合は所管の厚生局や所属団体にご確認ください。2点目は、記録の中身が体の状態に踏み込みやすいことです。エステと同じく、扱いを一段慎重にしておきます。なお、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律や柔道整復師法に基づく広告の考え方は近年整理が進んでおり、ウェブサイトやSNS上の表示も対象になり得ます。お客様の声や記録を店外に出す場面では、施術の成果を示す形にしない判断をしておくのが安全側です。判断に迷う場合は、所管の保健所や業界団体、専門家にご確認ください。

新規開業のこれから … いちばん楽なタイミングです。器が混ざる前に分けられるからです。開業準備の段階で、店の情報を入れるアカウントを1つ用意して、そこから始めます。あとから分けるより、はじめから分けるほうが手間が少なく済みます。

まとめ

顧客情報の扱いは、次の順で決めていきます。

  1. 棚卸し。 何を・どこに預かっているかを1枚に書き出します。危ないのは、鍵をかけ忘れた場所ではなく、書き出しから漏れた場所です。
  2. 持ち出せる経路を潰す。 画面ロックと自動ロック、写真の自動バックアップ先、共用の端末とアカウント、パスワードの使い回し、持ち出す紙。この5点を1日1つずつ確認します。
  3. 見せる範囲を3段で決める。 予約だけ/自分の担当だけ/全部。そして、辞めるときの手順を雇う前に決めておきます。
  4. 期限と捨て方を決める。 個人情報保護法には保存期間の定めがないので、年数は自店で決めて書いておきます。紙の処分方法と、端末を手放すときのデータの消し方まで含めます。
  5. 伝え方と、起きたときの動き方を決める。 利用目的をひと言で示し、紛失時に最初にやること(止める・範囲を確かめる・記録する・相談先)を1枚メモにしておきます。

この記事のいちばんの要点は、規程より先に境界という順番です。ひとりサロンの弱点は知識の不足ではなく、店と自宅と自分のスマートフォンの境界がないことにあります。器を分ける作業には気づきが伴いますが、文章を整える作業には伴いません。紙1枚と、ログインを分ける15分から始められます。

見せる範囲を、記憶ではなく道具の側で分けるなら

3段で決めた線引きは、道具の側でも分けられると運用が楽になります。SALONA(サローナ)では、スタッフのアカウントは自身のデータのみ、オーナーのアカウントは全体を見られる形に分かれていて、在庫まわりの権限は個別に許可できます。受付で共有して使う店舗端末用のアカウントも別に用意できるので、自分のログインを人に貸さずに済みます。予約・電子カルテ・顧客管理・売上管理・LINE連携まで込みで月額¥4,980(最安水準。2026年8月時点・予約専用ツールに各機能を別契約で足した構成との比較・自社調べ)、初期費用は0円です。

SALONAを見てみる →

よくある質問(FAQ)

Q. 顧客名簿が数百人しかない個人サロンでも、個人情報保護法の対象になりますか。
A. 対象になります。個人情報保護委員会は、個人情報データベース等を事業の用に供している者であれば「特定の個人の数の多寡にかかわらず、個人情報取扱事業者に該当します」としています。かつて5,000人分以下は除外されていましたが、平成29年5月30日の施行後は該当することとなった旨も明記されています(ガイドラインQ&A Q1-50・2026年8月14日確認)。ただし、大企業と同じ体制が求められているわけではありません。同じ委員会が「中小規模事業者において、必ずしも大企業と同等の安全管理措置を講じなければならないわけではありません」としています(同 Q10-5)。まずは棚卸しの1枚から始めるのが現実的です。

Q. サロンのカルテは何年保管すればいいですか。
A. 業態によって根拠が変わります。個人情報保護法そのものには保存期間の定めがなく、委員会も「個人情報保護法では、個人情報の保存期間や廃棄すべき時期について規定していません」としたうえで、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努める旨(法第22条)を示しています(ガイドラインQ&A Q5-2・2026年8月14日確認)。医療分野には法令上の年限があり、医師法第24条第2項は診療録を「五年間これを保存しなければならない」と定めています。一方、自費のサロンについて保存年限を一律に定めた法令は見当たりません。ですので、来店周期と実際に見返す回数から自店で年数を決め、同意書や問診票に書ける形にしておくのが実務解になります。保険を取り扱う治療院は別の枠組みがあるため、所管の厚生局や所属団体にご確認ください。

Q. お客様から「私の情報を消してほしい」と言われたら、どうすればいいですか。
A. まず、どこに何が残っているかを確認します。紙のカルテ、ツールの中の登録、スマートフォンの連絡先、トークアプリの履歴、写真。棚卸しの1枚があると、この確認が早く済みます。次に、消せるものと消しにくいものを分けます。会計や税務の記録として残す必要があるものは、カルテの記録とは別の扱いになります。そのうえで、対応した内容と日付を記録に残します。なお、保有個人データについて本人が利用停止や消去を求められる場面は法律上定められており(個人情報保護法第35条)、どこまで応じるかは事案によって判断が変わります。判断に迷う場合は弁護士などの専門家にご相談ください。日ごろの備えとしては、保存期間を先に決めて伝えておくことが、この場面での迷いをいちばん減らします。

運営: 株式会社art crat./SALONA編集部
公開日: 2026-08-14 最終更新: 2026-08-14
小規模・個人サロン、自費の治療院の経営・集客・カルテ・ツール選びに、現場の手順で具体的に答えるメディアです。
本記事は個人情報の取り扱いについて、公的資料に基づく一般的な考え方を紹介するものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。判断に迷う場合は弁護士などの専門家にご相談ください。法令・ガイドラインの内容は改定されます。記載は2026年8月14日時点のものです。
参照した一次情報: 個人情報保護委員会 ガイドラインQ&A Q1-50(取り扱う件数が少ない事業者と個人情報取扱事業者の該当性)同 Q10-5(中小規模事業者と安全管理措置)同 Q5-2(個人情報の保存期間・廃棄と法第22条)個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(10(別添)講ずべき安全管理措置の内容)個人情報保護委員会 漏えい等報告・本人への通知の義務化について医師法(第24条第2項・診療録の保存)
本記事は、関連する記事が増えるたびに加筆しています。

この記事をシェア

XでシェアLINEで送る