スタッフに売上や給与はどこまで見せる?サロンの見せる範囲の決め方
スタッフに売上や給与はどこまで見せるかを、店側で決める
ひとりで回していたサロンに、2人目が入る。あるいは、場所を貸している施術者が増える。そのとき最初に詰まるのが、サロンのスタッフに売上をどこまで見せるか、他人の給与が見える状態にしていいのか、という線引きです。この問いに業態共通の正解はありません。雇用なのか業務委託なのか場所貸しなのかで、答えが逆になるからです。この記事は「正しい設定」の紹介ではなく、自分の店の線を自分で決めるための手順です。わかることは3つです。(1)情報ではなく「任せる範囲」から決める順番、(2)情報を4つの層に分けて上から渡す・渡さないを決める方法、(3)分けすぎて店が止まる事故を先に潰す3つの自問です。紙の台帳でも共有の表計算でも、同じ判断ができます。
結論:「見せる範囲」の前に「任せる範囲」を決める
先に答えをお伝えします。この問題でこじれるのは、判断が難しいからではありません。情報の側から線を引こうとしているからです。
順番はこうです。
- その人が1日の仕事を終えるのに必要な操作を書き出す。
- その操作に要る情報だけを渡す。
- 残った情報について、渡す・渡さないの理由を言えるようにする。
- 決めた線で、その人が休んだ日に店が止まらないかを確認する。
- 人ではなく端末から漏れる、という前提で置き場所を決める。
「売上を見せるか」から考え始めると、答えの出ない議論になります。見せる理由も見せない理由も、どちらももっともらしく立つからです。一方、「その人が予約を1件こなすのに何が要るか」から考えると、必要なものはすぐに決まります。必要から逆算すると線は引けて、情報から入ると引けません。これがこの記事の全体です。
ここでもうひとつ、先に言っておきたいことがあります。多くの店で起きているのは「見せすぎ」の事故ではなく、分けすぎて店が回らなくなる事故のほうです。後述の④で、実際にそうなった店の話を扱います。
こじれるのは、情報の側から線を引いているから
なぜ情報から入るとこじれるのか、を分解します。
情報から入ると、判断の基準が「気持ち」になります。他人の売上を見られるのは気まずい、自分の給与を知られたくない、店の数字を知られると足元を見られるかもしれない。どれも本当の感覚ですが、基準が気持ちしかないと、日によって線が動きます。動く線は、相手からは方針ではなく気分に見えます。
さらに、次の3つが起きます。
- 決められないまま先送りになる。 「とりあえず全部見えないようにしておこう」で始めて、実務が回らなくなってから慌てて戻す形です。順序が逆になっています。
- 理由を説明できない。 相手から「なぜ自分はこれが見られないのか」と聞かれたとき、必要から逆算していないと答えられません。答えられない線は、隠しごとに見えます。
- 本人に関わる数字まで隠してしまう。 自分が担当したお客様の記録や、自分の取り分の根拠まで見えない状態は、守っているのではなく、単に仕事の道具を渡していない状態です。
そしてもうひとつ、順序の問題があります。線を引くのは、その人に入ってもらう前です。入ってもらってから制限を足すと、同じ内容でも「信用されていない」という受け取られ方になります。最初に「ここまでお願いします、だからここまで見えるようにしてあります」と説明できていれば、同じ線でも意味が変わります。2人目を迎える前の準備全般は、ひとりサロンが2人目を雇うタイミング|採用前に確認したい数字と準備にまとめてあります。
① その人が1日を終えるのに必要な操作を書き出す
最初の作業は、情報の一覧ではなく操作の一覧を作ることです。
紙に、その人の1日を朝から順に書きます。出勤して、今日の予約を確認して、お客様が来て、施術して、記録を残して、会計をして、次回の予約を取る。この流れの中で、その人自身が手を動かす必要がある操作に印をつけます。
たいていの店で、印がつくのはこのあたりです。
- 自分が担当する予約を見る
- 自分の枠に予約を入れる・直す・キャンセルを反映する
- 来店したお客様の記録を残す(施術内容、使ったもの、次回の申し送り)
- 会計を通す(金額を確定して、支払い方法を記録する)
- 自分が受けられない時間帯を塞ぐ(休憩、私用、講習など)
ここまでは、雇用でも業務委託でも場所貸しでも、ほぼ共通して必要になります。これらを渡さない選択をすると、そのぶんの作業がオーナーに戻ってくる、という関係になっているのがポイントです。オーナーの手を空けるために人を入れたのに、確認と代理入力が増えて、かえって忙しくなる店があります。原因はここです。
逆に、印がつかないものもあります。
- 店全体の月の売上を見る
- 他の施術者の予約の中身を見る
- 他人の報酬額を見る
- レジの締め作業や、月次の集計を出す
これらは、その人が今日の仕事を終えるために要るものではありません。要らないから渡さない、でよい。ただし「今日の仕事に要らない」と「渡してはいけない」は別の話です。当事者意識を持ってほしいから店の数字を共有する、という判断は成り立ちます。次の②と③で分けて考えます。
② 情報を4つの層に分けて、上から順に決める
操作の一覧ができたら、情報を層に分けます。全部を一列に並べて悩むと決まりませんが、層に分けると、上のほうは迷わずに決まります。
| 層 | 中身 | 渡さないと起きやすいこと | 渡すと起きやすいこと |
|---|---|---|---|
| ① 自分の担当分 | 自分の予約、担当したお客様の記録 | その人が仕事を進められず、確認がオーナーに集中する | ほとんど問題になりません |
| ② 店全体の空き状況 | 誰がいつ埋まっているか(中身ではなく空き) | 代打・振替・当日の入れ替えができない | 他の人の混み具合が見えます |
| ③ 店全体の数字 | 店の売上、客数、月の推移 | 店の状況が共有されず、判断の背景が伝わらない | 比較や詮索のきっかけになることがあります |
| ④ 個人の報酬・単価 | 誰がいくら受け取っているか、個別の単価 | 業務委託では、取り分の根拠が見えず不信につながることがあります | 人間関係の摩擦になりやすい部分です |
上の2つ(①②)は、渡さないと現場が止まりやすい層です。特に②は見落とされがちですが、店として動く以上、誰がいつ空いているかが見えないと、代わりに受ける・振り替えるという判断ができません。中身(誰のどんな予約か)まで見せる必要はなく、空いているかどうかだけで足ります。
下の2つ(③④)は、分けたほうが摩擦が少ない層です。ただしこれは傾向であって、規則ではありません。特に④の層は、雇用か業務委託かで意味がまるで変わります。次の見出しで扱います。
なお、この層分けは考えを整理するための道具であり、業界で決まった分類ではありません。自店の実情に合わせて、層を増やしても減らしても構いません。大事なのは、「上の層から順に決める」という向きのほうです。
用語の話をひとつ。ここで出てくる「店の売上」「客数」「客単価(お客様1人あたりの平均単価)」といった数字は、どこまで共有するかを決める前に、まずオーナー自身が何を見ているかを整理しておくと決めやすくなります。見るべき数字の全体像はひとりサロンが見るべき経営の数字とは?KPI入門にまとめてあります。
③ 雇用・業務委託・場所貸しで、線の引き方が変わる
同じ「スタッフ」でも、関係が違えば適切な線も違います。ここは断定せず、両方の考え方を並べます。
雇用の場合。 店の数字(③の層)を共有するかどうかは、経営の考え方が分かれるところです。
- 共有する考え方:店の状況が見えると、暇な時期に何をすべきかが自分ごとになります。「今月は新規が少ない」が共有されていれば、声かけや紹介の動きが自然に出ることがあります。
- 共有しない考え方:数字は文脈とセットでないと誤読されます。売上だけが見えて経費が見えないと、「これだけ入っているのに」という受け取られ方をすることがあります。共有するなら、経費と手取りの構造まで説明できる準備が要ります。
どちらが正しいというより、説明する準備があるかどうかで選ぶのが現実的です。数字だけ渡して説明しない形が、いちばん摩擦を生みます。
業務委託の場合。 ここは考え方が逆に振れます。委託先にとって、自分の売上と取り分の計算根拠は自分の商売の数字です。これが見えない状態は、守っているのではなく、取引条件が不透明な状態に近くなります。
- 本人に関わる数字(自分が受けた件数、自分の売上、取り分の計算根拠)は、見える側に倒すのが自然です。
- 他の委託先の数字は、本人の商売とは無関係なので、分ける理由がはっきりしています。
歩合の計算方法や源泉徴収など、お金の受け渡しそのものの設計は、面貸し・業務委託スタッフの予約管理と歩合・源泉の分け方で扱っています。この記事は、あくまで情報をどこまで開くかに絞ります。
場所貸し(面貸し・シェア)の場合。 いちばん線がはっきりします。他の施術者の売上は、そもそも他人の商売です。分ける理由に迷いがありません。共有するのは、場所と設備が空いているかどうか(②の層)だけ、という形が成り立ちます。
契約と法律の扱いについて。 給与額の共有範囲、退職後のアカウントの扱い、秘密保持や競業避止の取り決めは、契約の内容と自店の方針によります。この記事では判断を示しません。書面に落とす段階になったら、社会保険労務士や弁護士など専門家にご相談ください。
渡すのは「記入」だけ、という線もある
線は、細かく設計しなくても成立します。実例をひとつ紹介します。サロンオーナーへのヒアリングに基づき、特定できない形に匿名化しています。以下はヒアリングメモの要約で、発言そのままの引用ではありません。
複数の施術者がそれぞれ自分のお客様を受けながら、同じ場所で営業しているサロンのオーナーAさん(仮名)の話です。Aさんは、予約の受付と管理は自分が一手に持ち、他の施術者には「自分の予約が入った日に、台帳に記入できればそれでいい」という線を、自分から引いていました。他の人の予約に指名や割り当ての操作をさせる必要はない、記入さえできれば足りる、という整理です。
この線は、外から見ると「制限が強い」ように見えます。しかし中身を見ると、①の層(自分の担当分)の書き込みだけは開いていて、それ以外は閉じています。②の層(店全体の空き)も、記入する以上は自然に見える形になります。
ここから学べることが2つあります。
1つめ。線は「見る/見ない」ではなく「書ける/書けない」で引くこともできます。 情報の閲覧範囲だけで考えていると、この選択肢が出てきません。見えていても書き換えられない状態と、そもそも見えない状態は別のものです。前者で足りる場面は、思ったより多くあります。
2つめ。オーナーが受付を握る形は、それ自体が線引きです。 Aさんの店では、予約の受付という窓口をオーナーが持つことで、開示範囲の議論の大半が発生していません。「誰に何を見せるか」の前に「誰が受付をするか」を決めると、後段の設計がぐっと簡単になります。
もちろん、これはAさんの店の形に合った答えであって、そのまま真似すべき正解ではありません。オーナーが受付を握る形は、オーナーが動けなくなった日に止まる、という弱点と裏表です。次の④は、まさにそこの話です。
④ 「分けすぎて回らない」を先に潰す
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
分ける方向に倒したときの失敗は、分けた直後には表面化しません。数日〜数週間たって、誰かが休んだ日や、当日に予定が動いた日に、突然止まります。
こちらも、サロンオーナーへのヒアリングに基づき匿名化した実例です(発言そのままの引用ではなく、要約です)。
2名で回しているサロンのオーナーBさん(仮名)は、もう1人の施術者に別々に登録してもらう形を試しました。ところが実際に運用を始めると、その施術者側から入った予約を、Bさんの側からは一切さわれない状態になりました。予約が入っているのは見えるのに、動かすことも直すこともできない。分けたときに誰がどこまでさわれるかは、使っている道具や設定によって変わります。ただ、2人しかいない店で、片方が片方の予約に手を出せないというのは、実務としては止まっているのと同じです。
Bさんの店では、それぞれが自分の受けられる件数の上限に達した時点で、自分で残りの枠を塞ぐ、という運用でしのいでいました。分けたことで、本来は不要だった手作業が増えたわけです。
この事故は、次の3つを先に自問しておけば、ほぼ防げます。
(1) その人が休んだ日、誰がその予約を直すのか。 体調不良の連絡が朝に入る。その人の枠に入っているお客様に、誰がどうやって連絡し、誰が枠を動かすのか。ここに答えがないなら、分ける単位が細かすぎます。
(2) 当日ドタバタしたとき、手の空いた人が代わりに動けるか。 予約が押した、飛び込みが来た、機材が使えない。こうしたときに動けるかどうかは、②の層(店全体の空き状況)が見えているかで決まります。空きが見えない状態では、代わりに受けるという判断そのものができません。
(3) 自分(オーナー)が外にいる時間、店は止まらないか。 講習、仕入れ、来客、家庭の用事。オーナーが受付を握る形にしているなら、握っていない時間に何が起きるかを想定しておきます。
3つのどれかで詰まったら、分ける単位を1段粗くします。細かく分けるほど安全になるわけではありません。 分けた結果として日々の手作業が増えているなら、それは安全になったのではなく、リスクの形が「漏れる」から「止まる」に移っただけです。
⑤ 漏れるのは人ではなく、置きっぱなしの端末から
人ごとに線を引く話をしてきましたが、実際に情報が意図せず見える経路は、人ではなく場所であることが多いです。
受付に置きっぱなしのパソコンやタブレット、みんなで使う共通のログイン。これらは、誰でも触れる前提で中身を決めます。個人に紐づいた線引きをどれだけ丁寧に設計しても、共有の入り口が広く開いていれば、そこが実効的な範囲になります。
実際、ヒアリングの場でも、店に置く共有のパソコンについて「どこまで触れる状態にしておくか」を気にされるオーナーCさん(仮名)がいました。共有端末の扱いを、人ごとの線引きとは別の論点として意識している、という水準の話です。
決めておくことは2つです。
1つめ。共有の入り口には、いちばん広く開いてよい範囲を当てる。 その端末を使う可能性のある人全員に開いてよい範囲だけを置きます。「普段は自分しか使わないから」で決めると、繁忙期に人が増えたときにそのまま持ち越されます。
2つめ。人が入れ替わるときに何を止めるかを、入ってもらう前に決めておく。 辞めるときになってから考えると、抜けが出ます。事前に書き出しておく対象は、おおむねこのあたりです。
- 予約や顧客情報を見るためのログイン
- 共有端末のログイン、パスワードの共有メモ
- 店の鍵、スペアキーの所在
- お客様との連絡に使っているアカウント(店の公式アカウント、メール、SNS)
- 個人の端末に残っているお客様の連絡先
最後の項目は、線引きの設計からいちばん抜けます。個人の携帯にお客様の連絡先が入っている状態は、店側から止められません。そもそも個人の端末に残さない運用にしておくほうが、あとから回収するより現実的です。
なお、退職後のアカウント停止や、在職中に知った情報の扱いをどこまで契約で縛れるかは、契約の内容と個別の事情によります。書面に落とすときは専門家にご相談ください。
ひとり時代の「全部自分で見える」を基準にしない
もうひとつ、設計の前提として持っておきたい視点があります。
ひとりで店を回していた期間が長いほど、「全部の情報が自分から見える」状態が当たり前になっています。予約も、カルテも、売上も、お金の動きも、全部ひとつの頭の中でつながっている。この状態は快適です。だから2人目を迎えるときも、無意識にこの状態を基準にしてしまいます。
すると、こういう考え方になります。「自分は全部見える。相手は必要なところだけ見える。差分は隠す」。
この設計は、たいてい行き詰まります。理由は2つあります。
1つめ。「必要なところ」を、オーナーが正確に見積もれないからです。 ひとりでやっていたときは、必要なものを取りに行く動作が無意識でした。何をどのタイミングで見ていたか、自分でも言語化できていません。だから見積もりが小さくなり、実際に働き始めてから「これも要る」が次々出てきます。①の操作の書き出しを先にやるのは、この見積もりを紙の上に出すためです。
2つめ。「差分は隠す」が、関係の初期設定になってしまうからです。 情報の非対称そのものは、経営者と働く人のあいだに当然あるものです。問題は、それが説明されないまま始まることです。同じ線でも、「必要だからここまで開いています」と伝えて始めるのと、何も言わずに閉じておくのとでは、半年後の空気がまったく違います。
だから、線を引いたらその理由を1回だけ口に出す。長い説明は要りません。「あなたの仕事に要るのはここまでなので、ここまで開けてあります。店全体の数字は自分が見ます」で足ります。これを最初に言えるかどうかが、後々の「なぜ自分だけ」を防ぎます。
スタッフに渡す前に確認する5点
ここまでの内容を、そのまま使える形にまとめます。人に入ってもらう前に、この5点を紙に書いて確認してください。
〈スタッフに渡す前に確認する5点〉
- その人が1日を終えるのに必要な操作を、書き出してあるか。 情報の一覧ではなく、手を動かす操作の一覧です。書き出していないなら、渡す範囲の見積もりは当てになりません。
- 自分の担当分と、店全体の空き状況を渡してあるか。 この2つを閉じると、確認と代理入力がオーナーに戻ってきます。渡さないと決めるなら、その作業を自分が引き受ける前提で決めます。
- 店の数字と個人の報酬について、渡す・渡さないの理由を言えるか。 相手に聞かれたときに答えられる言葉になっているかどうかです。「なんとなく」なら、まだ決まっていません。
- その人が休んだ日に、誰がその予約を直せるかが決まっているか。 ここが空白なら、分ける単位が細かすぎます。1段粗くします。
- 共有端末の範囲と、辞めるときに止めるものが決めてあるか。 端末と鍵とアカウント、そして個人の端末に残るお客様の連絡先まで含めて、入ってもらう前に書き出します。
5点のうち3つ以上が空白なら、線を引く作業より先に、①の操作の書き出しに戻ります。
よくある失敗
線引きでつまずきやすい点を挙げます。
- 情報の一覧から決め始める。 「売上は見せるか」「給与は見えていいか」から入ると、どちらの理由も立つので決まりません。操作の一覧から逆算します。
- 人が入ってから制限を足す。 同じ線でも、後から狭めると「信用されていない」という受け取られ方になります。入ってもらう前に決めて、理由とセットで伝えます。
- 細かく分けるほど安全だと考える。 分けるとリスクは消えず、「漏れる」から「止まる」に形を変えます。休んだ日と当日変更の2場面で確認します。
- 店全体の空き状況まで閉じる。 中身を見せる必要はありませんが、空いているかどうかまで閉じると、代打も振替もできなくなります。ここは開ける側に倒すのが現実的です。
- 本人に関わる数字まで隠す。 特に業務委託では、自分の売上と取り分の根拠が見えない状態は、守っているのではなく取引条件が不透明な状態です。
- 数字だけ渡して説明しない。 店の売上を共有するなら、経費と手取りの構造まで説明する準備をセットにします。売上だけが独り歩きすると、かえって誤解が生まれます。
- 共有端末を後回しにする。 人ごとの線をどれだけ丁寧に引いても、受付に置きっぱなしの端末が広く開いていれば、そこが実際の範囲になります。
- 辞めるときの手順を、辞めると言われてから考える。 ログイン、鍵、店のアカウント、個人の端末に残る連絡先。入ってもらう前に一覧にしておきます。
- 他の人の給与額を、確認のつもりで共有してしまう。 給与の共有範囲は契約と自店の方針によります。判断に迷う段階で外に出さない、が無難です。
業態別の差分メモ
同じ線引きでも、業態によって重心が変わります。
- 美容室:指名が売上に直結するため、④の層(個人の報酬・単価)の摩擦が出やすい業態です。一方で、薬剤の放置時間などに他の人が手を貸す場面が多く、②の層(店全体の空き)を開けておく必要性は高くなります。下は閉じて、上から2段は開けるという形が噛み合いやすい業態です。
- まつげエクステ・ネイル:1対1で完結しやすく、代わりに入れる場面が少ない業態です。そのぶん②を開ける必要性は美容室より低めですが、当日のキャンセルや振替の連絡が誰にも取れない状態は避けます。「誰が連絡窓口か」を先に決めておきます。
- エステ・脱毛など設備を使う施術:人の空きだけでなく、ベッドや機材の空きが埋まっているかどうかが共有されないと、予定が組めません。②の層に「設備の空き」を含めて考えます。
- 自費の整体・鍼灸など:お客様の記録に体調や既往の情報が含まれます。①の層(自分の担当分)は仕事に必要なので開けますが、担当していないお客様の記録まで全員が見える状態にする必要はあるかを、一度立ち止まって確認します。取り扱いのルールを院内で文章にしておくと、人が増えたときに説明が短くて済みます。なお、施術の内容や効果に関する表現は、2025年のあはき柔整の広告ガイドライン改正でホームページやSNS、地図サービスの表示まで規制の対象になっています。院内の取り決めを対外的に公開する場合は、書く範囲に注意します。
まとめ
スタッフに売上や給与をどこまで見せるかは、情報から考えると決まりません。順番を入れ替えます。
まず、その人が1日を終えるのに必要な操作を書き出します。次に、情報を層に分けて、上から順に決めます。自分の担当分と店全体の空き状況は、渡さないと現場が止まりやすい層です。店全体の数字と個人の報酬は、分けたほうが摩擦が少ない層ですが、雇用か業務委託か場所貸しかで意味が変わります。特に業務委託では、本人に関わる数字は見える側に倒すのが自然です。
線は「見る/見ない」だけでなく「書ける/書けない」でも引けます。受付をオーナーが持つ形も、それ自体がひとつの線引きです。
そして、分ける方向に倒すときは、先に3つを自問します。その人が休んだ日に誰が予約を直すのか、当日ドタバタしたときに手の空いた人が動けるのか、オーナーが外にいる時間に店は止まらないのか。細かく分けるほど安全になるわけではなく、リスクが「漏れる」から「止まる」に移るだけです。
最後に、漏れる経路は人より端末です。共有端末には、いちばん広く開いてよい範囲を当てます。そして、人が入れ替わるときに何を止めるかを、入ってもらう前に書き出しておきます。紙1枚、30分の作業です。
決めた線を、道具の側でも保てるか
線を紙に書いたら、次は日々の道具がその線を保てるかどうかです。SALONA(サローナ)では、オーナーとスタッフで見える範囲が分かれていて、店全体の売上や経営の数字はオーナー側にとどまります。店に置く共有の端末についても、給与や経営の数字を含まない範囲で現場の運用ができる形を用意しています。予約の承認は担当でなくても在籍しているスタッフが行えるので、オーナーが外にいる時間でも予約の確定を進められます。担当を問わず予約を直したい場面は、店に置く共有の端末から行えます。決めた線を、毎日の操作のたびに気にしなくて済む状態にしておくための土台です。
よくある質問(FAQ)
Q. スタッフに店全体の売上は見せるべきですか。
A. 業態や雇用形態を問わない正解はありません。判断の軸は「説明する準備があるか」です。共有すると、暇な時期に何をすべきかが自分ごとになりやすい一方、売上だけが見えて経費や手取りの構造が見えない状態は、誤解のもとになります。共有するなら、経費と手取りまで説明できる形をセットにしてください。逆に、その人が1日の仕事を終えるのに店全体の売上は必要ないので、共有しない選択も十分に成り立ちます。どちらを選ぶにしても、理由を口に出して伝えるところまでを1組にすると、後々の摩擦が減ります。
Q. 他のスタッフの給与が見えてしまう状態は問題ですか。
A. 個人の報酬額は、分けたほうが摩擦が少ない層です。本人が受け取る額の根拠は本人に開き、他の人の額は分ける、という形が扱いやすくなります。特に業務委託では、自分の売上と取り分の計算根拠が見えない状態のほうが不信につながることがあるため、本人に関わる数字は開く側に倒すのが自然です。ただし、給与額をどこまで共有してよいかは契約の内容と自店の方針によります。就業規則や契約書に落とし込む段階になったら、社会保険労務士や弁護士など専門家にご相談ください。
Q. スタッフごとにアカウントを分ければ安全ですか。
A. 分けることで安全になる部分はありますが、それだけでは足りません。実際に、2名の店で人ごとに分けた結果、相手側から入った予約に一切さわれなくなり、日々の運用が回らなくなった例があります(ヒアリングに基づき匿名化)。分ける前に3つ確認してください。その人が休んだ日に誰がその予約を直すのか、当日の予定変更で手の空いた人が代わりに動けるのか、オーナーが外にいる時間に店が止まらないか。どれかで詰まるなら、分ける単位が細かすぎるサインです。1段粗くして、店全体の空き状況は見える側に残すところから始めます。
運営: 株式会社art crat./SALONA編集部
公開日: 2026-08-10 最終更新: 2026-08-10
本記事のお客様の声は、SALONA利用サロンへのヒアリングに基づき、特定できない形に匿名化して掲載しています(発言そのままの引用ではなく、ヒアリングメモの要約です)。
注記: 給与情報の共有範囲、退職後のアカウントの扱い、秘密保持・競業避止などの取り決めは、契約の内容と個別の事情によって判断が変わります。本記事では法的な判断を示していません。書面に落とす際は社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。